レビュー | 富士フイルムのX-T2はウェディングフォトの現場で使えるか
さて、今日は機材・カメラの話です。
ミラーレスカメラがどんどん進化してきていて、かつてフィルム一眼レフカメラがデジタル一眼レフカメラに取って代わられたように、今後はミラーレスが主役の座を奪うのか、プロのフォトグラファーも気になるところだと思います。
僕は、実際にミラーレス一眼をメインカメラとして使っているので、現場で使えるものなのか、経験を交えて感想を皆さんにお伝えさせていただきます。
スペック的な部分を調べるのであれば、他のカメラ関係のメディアをご覧ください。
--- 目次 ---
使用機材の変遷
デジタル一眼レフにあった不満点
Xシリーズとの出会い
X-T2の気に入っているところ、改善してほしいところ
- 小さい、軽い
- 電子ファインダーで等倍ピント合わせできるのが便利
- スポットライトなどの急な露出変化でもファインダー内で結果が見えているのですぐに適正露出にできる
- クラシッククロームの色合いがノーレタッチで良いくらいに絶妙
- RAWの高感度域は5Dmark3より調整できる余裕がある
- 顔認識・瞳AFの精度がイマイチ
- バッテリーがもたない
- スリープからの起動にやや時間がかかる
- 低照度下でAFがよく迷う
X-T2と一緒に使用しているレンズ
---
使用機材の変遷
詳しい話をする前に、僕の使用カメラはこのように移り変わってきました。
お金がなくて40Dから始め、EF-Sレンズを揃えてしまったので7Dへ。ISO800が限界で頑張っていたけど、高感度に限界を感じ、5Dmark3が出ると同時に購入。D750のコンパクトさや安さ、それからAF精度やRAW画質の良さ、可動式の背面液晶など、あらゆる面で5Dmark3を上回っていると思いD750へ。十分気に入っていたけど、ミラーレスに魅力を感じて思い切ってX-T2にチェンジ、という流れでここまでたどり着きました。
Canon EOS40D
Canon EOS7D
Canon EOS5D mark3
デジタル一眼レフにあった不満点
ズバリ、重い(笑)これに尽きます。
ウェディングフォトグラファーは、長い時で一日12時間くらい撮影することがあります。その間、もちろん所々で休憩できるタイミングはありますが、いつ何が起きるかわからないため、基本的にはカメラをずっとぶら下げたままになります。
僕が使用しているストラップは、
「ホールドファースト マネーメーカー」というダブルストラップです。そのため、標準でついているものよりも肩への負担は少ないですが、だからと言って全く疲れが出ないという次元ではないですよね、一眼レフは。
例えば、5Dmark3は約1kgあります。70-200mmは1.5kg。スピードライトは電気抜きで500g。それだけで3kgです。
もう一台につけるレンズが24-70mmだとしたら、2つ合わせて5kg以上の撮影機材を常時ぶら下げ、それにプラスしてレンズポーチに入れたレンズやバッテリーの重みもあります。ウェディング撮影は本当に、大変な重労働だと思います。
なので僕はD750にスイッチしたし、その際、レンズもf1.8の単焦点を中心に揃えました。スピードライトも極力オンカメラにせず、スタンドに立てて会場の端に置くなど、なるべく体力を消耗しないようあらゆる工夫をしたものです。
少しでも軽く、小さくを意識した機材選定や撮影スタイルでした。
Xシリーズとの出会い
僕はもともと、X-T1ユーザーでした。
「もしかしたらこれでウェディングが撮れるかもしれない」
そんな淡い期待を抱いて購入したX-T1でしたが、僕なりの結論を言うと、X-T1でウェディングは無理です(笑)撮ることはできます。でもそれはベストではない。
- 操作全体のレスポンス
- ブラックアウト時間
- カードが1スロット
- AFスピードや精度
など、色々と難しい点がありました。しかし、操作性は抜群にいい。プライベートカメラとしては大活躍です。絞りはレンズを回せばいいし、ISOはダイヤルを回せば変わる。画質は十分に綺麗。説明書がいらないというのは、カメラメーカーを変えたい時に、本当に素晴らしくハードルを下げてくれます。
分厚い説明書を読まないといけないというカメラは、僕は使いたいとは思いません。変えたいと思っているユーザーをかなり引き留めることになると思います。説明書をじっくり読んでいる暇はないし、そんなに読み込まないといけない機能が山盛りあると、現場で迷うというリスクも高まります。
その点、X-T1はカメラを渡されてすぐに撮影できる簡単さ。直感的で、ここを触ったらこうなるだろうな、という期待を裏切りません。
そんなこんなで、Xシリーズでウェディングが撮れたらなぁというのが、 僕のかねてからの希望でした。
X-T2の気に入っているところ、改善してほしいところ
Hello, X-T2!!
日本のお年玉制度を利用して、お正月にX-T2を導入しました(自分でお金を払って買っただけです)。
というのも、店頭でX-T2を触ってみて、自分が不満に思っていた点が全て解消されていたからです。「これはいけるかもしれない...いや、たぶんいける」そんな自信が芽生え、思い切って持っていなかった焦点距離のレンズも購入し、一気にウェディング撮影にX-T2を使用する方向に進めました。
これを書いている2017年9月末の時点で、X-T2購入から約9ヶ月。いいと思う点もあれば、これがちょっとこうなれば...ということもあります。
スペック上での話を僕がしてもしょうがないので、実際にウェディングの現場で使用しての感想を書いていきます。
X-T2の気に入っているところ
1. 小さい、軽い
X-T2は約500gです。5Dmark3の約半分。2台だと1kgの差が出ます。初めからカメラの重さが違っていたら受け入れてしまうと思いますが、例えばX-T2を使いながら1kgの重りを持って歩けと言われたら絶対に嫌ですよね。
そして、標準ズームの16-50mmは約650gで、50-140mmは約1kg。EF24-70mmとEF70-200mmの合計が約2.3kgなので、ここでも700gくらいの差がつきます。ウェディング撮影はとにかく体力勝負。少しでも身軽になれるに越したことはありません。
2. 電子ファインダーで等倍ピント合わせできるのが便利
これは遠景やポートレートを撮るのに本当に便利です。D750にしてからだいぶ減りましたが、5Dmark3の時は「ピッ!」っていうあのAF合焦サインに何度騙されたか...寄った絵だと合わせやすいですが、人が小さく入って景色とともに撮るようなロケーションフォトでは、OVFのファインダーだともう勘に頼るしかないですよね。
撮って、液晶で見て、もう一回歩いてもらって、撮って、見て...の繰り返し。それが、ファインダーを覗きながら一発で決められると、撮影もスムーズです。
3. スポットライトなどの急な露出変化でもファインダー内で結果が見えているのですぐに適正露出にできる
ミラーレスではない一眼レフカメラの場合、スポットライト下で新郎新婦の入退場を撮影する際、二人がスポットライトに近づけば白飛びし、遠ざかればアンダーになる、という経験をきっとすると思います。
もちろんカメラの露出計を見たり、長年の勘だったりで、適正露出で撮ることもできると思いますが、確実ではないですよね。
ミラーレスの場合、露出が変わればファインダーで覗いている絵も変わります。そして、そこで見えている絵がそのまま仕上がりの絵になるので、ファインダー内で被写体が飛びそうになったらシャッタースピードなりISOなりを徐々に変えれば、確実に適正露出で撮り続けることができるというわけです。
クラシッククロームの色合いがノーレタッチで良いくらいに絶妙
キャノンやニコンの時は、いわゆるピクチャースタイルのようなものはほとんど使わず、カメラで絵づくりをすることがなかったのですが、X-T2にしてからは「Classic Chrome / クラシッククローム」と「グレインエフェクト弱」を標準の設定にするようになりました。グレインエフェクトは、フィルムっぽい粒状感をあえて出すという機能です。この二つによって、jpeg撮って出しでもいい雰囲気の写真を作り出すことができます。僕の場合はRAW撮影→LRで現像というフローなので、カメラのディスプレイで雰囲気を確認して、LRに読み込んでからは「カメラキャリブレーション」のプロファイルでCLASSIC CHROMEを選択します。
沖縄に行っておいてなんですが、僕はvividな色があまり好きではなく、彩度を抑えめにして撮りたいと普段から思っています。そこで役に立つのが、富士フイルムが標準で用意しているフィルムシミュレーション。プロビア、ベルビア、アスティア他、フィルム時代の色づくりを思い出させてくれる設定があらかじめ用意されています。
その中でも特に好きなのが、クラシッククローム。そんな名前のフィルムはなかったわけですが、フォトジャーナリストたちからの要望で作られたものらしく、僕も同じバックグランドを持つからか、非常に気に入っています。富士フイルムのサイト内に開発秘話が載っていますので、よろしければご覧ください。
RAWの高感度域は5Dmark3より調整できる余裕がある
こちらは感覚的に感じていることなので、今度データを用意して比較してみます。D750のように、真っ暗な画像を良好なコントラストや色味を維持して適正露出まで明るくできるということはありません。APS-Cの限界ですかね。
改善して欲しいところ
1. 顔認識・瞳AFの精度がイマイチ
これは店頭などで触ってみてください。ウェディングの現場で使える機能ではないなと思います。
2. バッテリーがもたない
僕はバッテリーを全部で7個持っていきます。結婚式一日の撮影、お支度から披露宴終了後の二人のフォトセッションまで入れて、合計8時間くらい撮影していると、それでちょうどいいくらいです(最後まで使い切ることはあまりないですが)。D750や5Dmark3ではバッテリー交換をすることはあまりないので、ここは不便に感じるところでしょう。
3. スリープからファインダーで確認、シャッターまでにやや時間がかかる
一眼レフの場合、電源がオンでもオフでもファインダーを覗くことができるので、カメラを構えていない時にシャッターチャンスが来た場合、電源をオンにするという動作をファインダーを覗いて構図を考えるという行為が同時進行できます。
しかし、ミラーレスの場合は、カメラが立ち上がらないとファインダーを覗けないので、それができません。ほんのコンマ何秒の世界ですが、決定的瞬間という意味では、たまにストレスを感じる部分ではあります。
4. 低照度下でAFがよく迷う
これはもう感覚値でしかないのですが、低照度のAF検出範囲は、D750が-3EV、5Dmark3が-2EVです。X-T2は仕様に載っていないのですが、-3EVほどの性能はないと感じます。
真っ暗に近い場所では、AFを起動させても合わずに行ったり来たりするので、そういう場合はファインダーで等倍拡大してマニュアルでピントを合わせています。悪い部分ではあるのですが、別の手段があるという意味では、まだましかなと思います。
X-T2と一緒に使用しているレンズ
背景をぼかすためのf0.95ポートレートレンズ
X-T2は画質は良いと言っても、やはりAPS-C。ボケやすさという点では、フルサイズに一段分ほど劣ります。そこで必要になってくるのが、ポートレート撮影用に背景をぼかせるレンズ。僕は、中一光学のSPEEDMASTER 35mm f0.95を使用しています。
このレンズはマニュアルフォーカスなので、AFのようにビュンビュンとピントを合わせることはできませんが、ピントリングは非常に滑らかで、カクカクっとした動きは全くありません。一眼レフだとMFでピントを合わせる自信がない人でも、ミラーレスならファインダー内で画像を等倍拡大できるので、その心配もありません。マニュアルフォーカスが好きな人は、ミラーレスは本当にオススメです。
ボケ味は、僕は全く不満はないです。柔らかく、背景が主張してくるようなうるささは一切感じません。中心部は絞り開放から十分にシャープなので、勇気を持ってf0.95を積極的に使っていくべきレンズです。
ただ、f0.95だと周辺の像が流れる印象なので、その際は絞るにこしたことはありません。f4くらいまで絞った方が良いと思います。
ちなみに、このレンズで撮影したデータは、Lightroomでは全て絞りf1.0と認識されるため、今回のexifデータは記憶ベースですのでご了承ください。
寄ってよし、引いてよしの万能レンズ
僕が以前、ドキュメンタリー撮影をしていたというのは前回のブログ記事で書きましたが、その時に一番よく使っていたのは広角レンズです。ウェディングでもドキュメンタリースタイルを引き継いだことから、やはり今でも広角はよく使います。
このXF23mm f1.4は、中心部は開放からシャープなため、寄ることでポートレートレンズのようにも使うことができます。f2の方の小さいレンズに比べると、発売時期が早いためAFが遅いですが、ウェディングで致命傷になるような遅さではありません。十分に実用的です。
引いた場合もしっかりと描写するので、これ一本でけっこう色々なものが撮れますが、引いた場合は開放で使うと、条件によっては解像しきれていなかったり、フリンジが出ていたりと画質の低下を感じます。できればf4くらいに絞りたいかなという印象です。
その他に使用しているレンズは以下のとおりです。
ロケの時は、XF23 f1.4とSPEEDMASTER 35mm f0.95とXF56mm f1.2の3本で撮りきります。
結婚式では、お支度の時にカールツァイスのマクロ、引きがどうしても足りない緊急用にXF10-24mmを使いますが、やはり基本的にはロケの時と同じ3本がメインです。
Xマウントのレンズを4本入れられるオススメのバッグ
レンズと一緒に紹介しておきたいのが、それらを持ち運ぶためのバッグ。ニコンを使っているときは、28mm f1.8とシグマART 50mm f1.4と85mm f1.8を入れていましたが、X-T2に変えてからはレンズも小さくなったので、4本も収納できるようになりました。
例えばレンズ付きのカメラを首からぶら下げて、残り2本とX-T2の予備ボディをバッグに入れるということも可能です。そうすれば、キャリーバッグもいらないし、大きなリュックもいりません。短いロケでは本当にこれで済んでしまいます。
ロケではストラップではなくスパイダーカメラホルスターがオススメ
先ほど、カメラストラップとしてholdfast moeny makerを紹介しましたが、ロケの時は僕は一台しか使っていないので、ダブルストラップである必要がありません。大げさに見えるし、正直なところ邪魔になります。
そこでオススメなのが、このspiderのカメラホルスター。カメラ底部の三脚のネジ穴に丸い金具を回して入れて、自分のベルトに黒い受け皿側を直接取り付けます。
D750の時から使っていますが、この2年間で落下は一度もありません。プロ用にもっとしっかりした作りのものもあるのですが、ミラーレスではこのタイプで十分です。ただ、永遠に耐久性が保証されるものではありませんので、重すぎるものはつけないとか、ある程度磨耗が進んできたら新しいもの買うなどして対処してください。自己責任でお願いします。
最後に
何度かに分けて記事にしようと思っていましたが、この一本の記事にあらゆることを詰め込むことにしました。
ウェディングフォトグラファーにとってX-T2は、不便な部分がある代わりに、メリットも多いです。パーフェクトな機材というのはないと思うので、自分に合ったカメラ選びの参考になればと思います。
**記事中にやたら良いロケーションで登場しているのは、全て沖縄での写真です。気になる方は、下記リンクをご覧ください。
クッポグラフィー ウェディングフォト・ワークショップ
優先案内メーリングリスト登録はこちら